気付いてしまいました。
前々からそうなんではないかと思っていたのですが
いや、結構確信を持っていたのだ。
自分、モテます。
知ってる人は知ってるとはずであるが
結構自分外で一人でいたりすると
向こうから声かけられたりする事多いんである。
自慢じゃあないがこう見えてモテるんです。
おっさんに。
これは本当に何なのかよく解らないのだが
外だの飲み屋だのに一人でボケっとしてると
大抵よくわからんおぢさんが話し掛けて来るんである。
(まあ飲み屋の場合はなんとなくわかるが)
この現象が現れ始めたのは主に高校時代からである。
その以前もまったく無かった訳では無いが
高校に入ってから爆発的に数が増えた。
印象に残っている人物の一人に
「空手家・近藤」と言われる人物がいる
これは高校時代、友達と例の如く授業をサボって
近くの公園にいた時に現れた人物である。
彼の話を聞くに、彼はどうやら彼は空手家であり
どっかの大学のOBだか師範だかだと言う。
(どこの大学かは失念。正直近藤という名前だったかも怪しい)
風貌としては決してガタイが良い訳でも別段筋肉質な訳でもないが
そう言われるとなる程、そんな貫禄の名残のような物が
感じられなくもない。
話を進める内に、自分がバンドをやっている事を告げると
「よし、俺がデビューさせてやる。とりあえず俺のツテの
ライブハウスに出ろ」
と言い放った。どうやらその筋のコネだかがあるらしい。
色々やってるオッサンだなと思った。
彼は御丁寧に自分の携帯番号まで教えてくれた。
そこで自分は言った。
「いえ、結構です」
気持ちは有難かったが丁重にお断りした。
後で聞いた話だが、このおぢさんはとりあえずその辺の
適当な若者にあちこち声を掛けていたようだ。
他にも「流れ星おぢさん」なる人物もいる。
これも高校時代、バンドの練習の帰りに自転車をこいでいると
公園のベンチに座るおぢさんがこっちに手を振りながら
「おーい、流れ星を見ないか」
と声を掛けてきた。
その日は確かに流れ星の多い日だった。
確か何度目かのしし座流星群だかなんだかが来た時だったと思う。
彼は色々な話を自分にしながら、ビールをくれた。
その話の大半はもう忘れてしまったが
「重要なのは、モチベーション・エモーション・アイデンティティだ」
と何度も言っていた事だけはまだ覚えている。
この言葉の真意は今だよく解らない。
ちなみにこの時、当時同じバンドのメンバーだった
中島祥(現・金肉レコード取締役)という男も一緒にいたのだが
彼は自分とおぢさんが二人で話している間
目の前の広場でひたすらでんぐり返し(前転)を繰り返していた
真面目な話、彼は一時間以上ひたすらでんぐり返し(前転)
を繰り返していたと思う。今思えば少し不思議な光景である。
しかしまあ、高校までは友達といる時と一人でいる時に
おぢさんに声を掛けられる確立が一対一ぐらいだったのだが
高校卒業後は圧倒的に一人でいる時に出会う確率が上がった。
前にとある用事で山梨に行った時の事である。
帰りの高速バスを待つ間、半日近くを駅前でつぶさなければ
ならなくなった。当然大した金も無いので
その辺に座ってボケッとしていた。
すると例の如く一人のおぢさんが話しかけてきた。
彼はどうやら人を待っているらしく、その間暇なようだった。
待ち時間の暇を持て余しているのは自分も同じなので
彼と自分は長い事話こんでいたと思う。
その間に彼は色々な物を自分にくれた。
とりあえず手始めにビールを何本かくれ、
後に日本酒のパック(1リットル)を丸々くれた。
(まあ少し飲んであったが)
しまいにはツマミにと食パンを一斤寄越して来た。
後にも先にも食パン(素パン)を肴に日本酒を1リットル
飲んだのはこの時だけである。
話の後半は自分もおぢさんも結構気持ちよくなっていたのを
覚えている。(おぢさんはおぢさんで呑んでいた)
やがてそのおぢさんには奥さんらしき待ち人が現れ
別れを告げた。
おぢさんと別れた後、暇なので別の場所でまたボケッと
していると、今度は別のおぢさんが話掛けてきた。
「兄ちゃん何してんだ?」
「バス待ってるんです」
「ほう、そうかあ・・・
まだしばらくここにいるか?」
「はあ、まあ。」
「じゃあちょっと待っとれ」
そう言っておぢさんは姿を消したまま
いつまで待っても現れなかった。
そして自分は予定通りやってきたバスに乗り
帰路についた。
そしてつい先週の事である。
訳あって渋谷で一夜を明かす羽目になったのだが
当然大した金もやる事も無いので
缶ビール片手に外でボケっとしていた。
横で唾をやたら吐く音が聞こえたので
振り向いてみると一人のおぢさんが唾吐きながら
ブツクサとうなだれていた。酔っているのか
機嫌が悪いのかはよく解らなかったが
しばらく少し離れた所でそうしていた。
やがてまあ、例の如くそのおぢさんは唐突に話掛けてきた。
「兄ちゃん、あの店あるやろ、あの店は駄目だ」
「どの店ですか」
「あれや、あの入り口に変な奴立っとるやろ」
「ああ、あれですか」
「兄ちゃん、どうせこんなとこいるなんて女やろ」
「はあ、まあ」
「でもな、教えちゃるわ、あの店は駄目だ」
そんな感じだった。
「兄ちゃん、ヤクザやらんか」
「いやあ、別に今はやる気ないですねえ」
「やるんやったら紹介したるで」
「いや、今の所はいいです」
話を聞くにその人もどうやらそっちの人らしい。
系列だと某山○組系列だそうだ。
見た所は普通のおぢさん(サラリーマン風というよりはフーテン風)
なのだが、まあ人は見かけによらんとも言うし
そっちの人にもOFFの時はあるだろうとか思っていた。
なによりどっちでも良かった。
「兄ちゃん、アイツ見てみい」
見ると大柄で真っ黒なスーツに身を包んだ
「いかにも」な人が歩いていた。
「アイツは住○や、無駄に肩揺らして歩いとるやろ」
「歩いてますねえ」
「馬鹿やからああゆう風にしか歩けんのや
しようもないタコじゃ」
そう言っておぢさんは笑った。
「兄ちゃん、彼女おらんやろ」
「え、あはい」
「前までおったやろ」
「はい・・・何で解るんすか」
「顔見りゃ全部書いてあるっちゅうねん、ボケが」
そう言ってまた唾を吐いた。
「ええか兄ちゃん、好きな女は金で買うんじゃ
その為に働け」
「あー、なるほど」
「だからヤクザやれ」
「それはいいです」
「なーに、ヤクザなんか二年やってやめりゃいいんじゃ」
「そんなもんなんすか」
「そうや、ヤクザにだって引き際ってもんがある
ようはその間に稼げばいい」
「でも、いいです、そんな根性もないし」
「アホが、ヤクザやってる奴なんて根性無しばっかや
お前、こうやってテッポウ突きつけられて生きてけるか」
そう言っておぢさんは横腹に指先ぐっとを押し付けてきた。
そしてジッと睨んできた。
「生きてけないですね」
「そうじゃ、そんなもんじゃ」
そんなこんなで長々と話し込んでいる間に空は白んできた。
「腹減ったなあ・・・兄ちゃん腹減ってないか」
「いや俺は大丈夫ですね」
「寿司食わせてやるわ、来い」
「え、でも俺そんな腹減ってないですよ」
こっちの都合はお構いなしで歩き出した。
寿司とは言っても時間も時間なのでちょいと
良い値段の回転寿司に連れて行かれた。
「おう、兄ちゃん、好きなの食えや」
「なんでもいいですよ、俺」
「じゃあ俺が頼んどるわ、おいマグロ二つ」
へーいと威勢のいい声が返ってきた。
「兄ちゃん、俺はお前の名前もなんも聞かん
だから黙って食え」
「どうも」
「・・・兄ちゃん、ヤクザやらんならホストやれ」
「いや、それも別にいいです」
「ほうか、兄ちゃんだったらなんとかなるで」
「はあ、でもいいです」
「兄ちゃん音楽はやらんのか」
「ああ、まあ少しやります」
「そうか、音楽はな、歌じゃ、歌が駄目だとどうにもならん」
「そうですか」
そんな感じでささやかに御馳走になった。
その後何故かソープにも連れて行かれそうになったが
時間も時間(早朝)なので丁重にお断りした。
そうして朝日とともにおぢさんとは別れた。
他にも色々あるがまあそれは割合。
とりあえずこういうおぢさん達は共通して
・何かくれる(主に酒)
・よくわからんが意味ありげな言葉を残していく
・あまり説教はしない
という事が多い。基本的には良い人が多いらしい。
これらのおぢさんとは会うのは一度きりである。
正しく一期一会と言う奴であり実際再び再会した
おぢさんと言うのは一人もいない。
それも特に理由もなくお互いの接点も何もない。
はっきり言えばそういう関係や出来事は嫌いではない。
こういう関係であるから、例えば上述のおぢさんが
実際に「その筋の人」であるかどうかはどうでもいいのだ
その人を信じる必要もないが、逆に言えばわざわざ疑う必要も無い。
その人が自分を事なる人物に演出するのであれば
それで付き合えばよいし、そんな一時の関係だから
本音をさらす場合もまたお互いにある。
どっちにしても最終的には自分がどう思うか
どう心に残すか以外は実際には何も残らないのである。
いざとなれば逃げ出す事も、話を拒む事も自由であり、
またそうする事によるデメリットもない。
ただ不思議なのは何故おぢさん達は自分に話し掛けるのか
という事である。こちらとしては別におぢさんと話すのは
嫌いではないが、逆に話したい訳でもない。
誰か理由が解れば教えていただきたい限りである。
まあ、それもまたどうでもいいっちゃいいんだが
ただ、ただである
もうそろそろ、もうそろそろ
おっさんより、おぢさんよりも
女の娘にモテたいです。
いや真面目な話。ちなみに女の娘から話掛けられた事は
一度も無いです。