夜の繁華街をふらふらしてました。
別に夜の街の住人だからというわけでは決してなく
単純に野暮用で都心に出て終電逃しただけなのですが。
正確に言うと逃したというより今回は見送ったんですが。
切符買ってギリギリで終電に乗り込もうとし、
車内を見たら
満杯。
これでもかと言うほど満杯。
見ただけでお腹いっぱい。
「いやあ、こんなん人間が乗るもんじゃあないよ」
と言ってそのままホームを後にし、切符払い戻し、また逆戻り。
まあ終電逃す事自体はそう珍しい事でもなく
幸い多く無くとも金もあったので
これなら空いてる始発で帰った方がマシだと。
で、多少の金があって、特に暇つぶす道具もネタも無い時の
始発を待つ時の自分のセオリーとして
(まあその場所うんぬんにもよるんですが)
1.特にあてもなくぶらつく
2.飲みに行く
3.クラブ(語尾上がりの方)に入ってみる
4.漫画喫茶
なんかがあるわけです。
(大体1.でいるうちに2.〜4.に落ち着く事が多い)
で、今回はというと迷わず4.
そう、漫画喫茶。
漫 画 喫 茶 !
普段漫画の単行本を買わない自分にとって
漫画喫茶とは唯一にして最大の
読みたい漫画を一機に読破するスポットなのだ!
今回のターゲットはズバリ
「手塚治虫全集」
前々からチョビチョビと読み進めてはいるが
これが一向に全巻読破できない代物。
今日こそは、今日こそは全巻読破までとは言わないものの
一機に読み進めてやる
待っていろ、アドルフ・・・
そう意気込んで目に入った漫画喫茶の扉を開く
「フフ、これだけでかい所なら間違い無く手塚全集も全巻装備だろう
なんといったって奴は漫画の神様だしな」
そんな不敵な笑みを浮かべながらカウンターへ
「いらっしゃいませ。当店の御利用は初めてですか?」
「はい・・・」
「えー、最初の三十分が200円、その後の・・・」
「・・・は無いのか」
「・・はい?」
「パック料金は無いのかと聞いているんだっっ!!」
「えー・・五時間パック1200円のコースが・・・」
「JUST IT!(そ れ だ !)」
「・・・リクライニングとオールフラットが」
「・・All・・flat・・・」
こうして店内への潜入に成功する。
慌てる事はない今回は五時間パック、時間は十分にある。
まずは自分の席を確認し、灰皿とドリンクを手に入れる
大体自分が漫画喫茶に行く時はこのような時、
用事の後の深夜で身体は疲れきっている。
最大の敵はズバリ睡眠だ、寝るだけなら何処でもできる。
私は今、この時この場所に漫画を読みに来たのだ
スヤスヤとお眠りする訳にはいかない。(それでも寝る時は寝てしまうが)
眠気を吹き飛ばすためにまずコーラを一機に三杯ほどブッ込む。
「げふっ・・ぐふ、げふぅ」
とめどなく込み上げて来るゲップと言う名の衝動を抑えながら
更にコーラとあったか〜い飲み物(コーヒー)を一杯づつ席に運ぶ。
これにて全て準備は整った。後は出陣し、敵を殲滅するのみ。
この時、志は学徒出陣、目つきは森の狩人となる。
BGMはワーグナーである。
が、流石にこの膨大な漫画本の中から目当ての物を見つけ出すのは
一苦労である。なにより、メンドクサイ。
こんな時は化学、もとい科学兵器の出番だ。
検索システム!
それはキーワードを打ち込むだけで
ターゲットとその現在位置を正確に弾き出し
兵士を的確に目的地へ導く正に悪魔の機械!
ぴっ ぴっ ぴっ
「て・・ず・・か・・・」
「あ、やべ『ず』じゃねえよ『づ』だよ」
「て・・づ・・か・・お・・さ・・む・・・・よし!」
検索!
ぴっ
該当:一件
「なに・・一件だと・・・」
「あ・・秋田書店って、そ、それはチャンピオンコミックス版の
ブラックジャックじゃあないか!それは、それはもう
全部読んじまってるんだよォォォオオオオ!!!
全集は、手塚治虫全集は何処だってばよ!何処だってばよ!!」
無い。
そんな馬鹿な。いや、うかつだった、全ては己自身の甘さが招いた結末
積み上げてきた・・・全て・・この綱渡り・・・
一瞬の・・気の緩み・・・油断・・見えていた・・
さっきまで見えていた・・「勝利」・・それが・・・
音を立てて・・・崩れ去る・・・・くっ・・・
しばらく呆然と画面の前に立ち尽くしたが
そうした所で何も始まらない、無いものは無い。
こうしている間にも時間は刻々と過ぎているのだ。
気を取り直し、新たな獲物を探すべく
膨大な漫画の山へと歩き始める。
プラプラと本棚の間をすり抜けていく
(ちなみにこの時の気分はもう、なんというか
「今日の晩御飯なーにかなーさんまかなー」ぐらいのもんである)
そして目に止まった物。
銀河鉄道999 松本零士(アンドロメダ編) 全18巻
おお、これは最近何かと話題(※)の松本零士先生の超名作ではないか
そういえば途中までしか読んでないんだよなあ
うーむしかし全18巻か・・・微妙だ
(こういう時、迂闊に長編物に手を出すと次に来る予定も特に無いのに
いい所でタイムアップになってしまい、なんともやり切れない思いで
退室する羽目になる事がある。自分の読破速度、体調等を考慮し
御利用は計画的にしなければならないのだ)
読み直すなら、最初から読みたいしなあ、微妙なラインだが
この人の場合、全部読みきってもやり切れない思いになる可能性もあるしなあ。
今回はとりあえずおいておこう。
[ちなみに、手塚先生の良い所は膨大な著作の中で、極端な長編が少ない、と
言う事も挙げられる。火の鳥、ブッダ、アトム、ブラックジャックぐらい
なものだ(あと三つ目もか)そのためこういった場面で非常に読みやすい。
そしてそれでいて物語の充実度が十分満たされてるのだ。と思う]
色々迷った末、手ごろな全6巻程の物に落ち着く。
此処で、幾ら時間が無いからと言ってなるべく早く読もう
と焦ったりはしない。してはならない。
なぜなら、全ての表現媒体においていかなる名作であっても
一度目、初見・初聴・初読に勝る感動・興奮・衝撃はやってこないからだ。
(読み返す、見直す楽しみというのはそれはそれであるが)
だからこそ、未見の作品こそ、一コマ一コマ、一字一句噛み締めるように読み
登場人物に存分に感情移入し、時にはのめり込み過ぎてページを捲る手が
先走るようにして読むのである。
そして約二時間後
読了。
(ちなみに自分は普通に読むのが遅い)
ここでコーヒーでも飲みながらゆっくりと煙草でもふかして
存分にその作品の感慨に浸る。
ここでも焦ってすぐ次の作品に手を出したりしてはならない。
その作品が良作であればこそ、この時間を大切にするのだ。
「○○さ〜ん(ヒロインの名前)」
「あー×××(死んだニヒルな脇役)なんでお前が・・」
とか心に思いながら。声に出すと危ない人になるので注意です。
声に出さなくても若干危ない人ですが。
さて、十分に思いを馳せた後残り約三時間
どうしたものか。
読み終わった作品をちゃんと棚に戻し、更なる獲物を探す。
そして見つけてしまう。
心の奥底で忘れかけていた
実はずっと前から読みたかった作品。
全12巻
あ、ああ、あ・・・
ここ、これは、読みたい。確かに読みたい。というかすっごい読みたい。
だがしかし、いけるのか?いけるのか俺?
残り三時間で12巻・・・いや、さっきのは字が多めだったけど
これなら大ゴマ多いしなんとか・・・・
ううう・・・・
しばし、葛藤。
いや、読む。
なぜなら読みたいから
なぜなら今ここで出会ってしまったから!
決断。
そして決行。
止まらない!読み進める!読み続ける!読み耽る!!
読む読む読む読む読む読む読む読む読む
読む読む読む読む読む読む読む読む読む
そして9巻目を読み終えた時、
ふっと我に返って時計を見る
乗り時間:12分
はうあ!
い、今丁度良い所なのに。せめて後1巻、そしたらなんとかキリ良く・・・
いや、12分あればいけるか?後1巻ぐらいはなんとかいけるんじゃあないのか、俺?
どうする、どうするよ俺。
いや、読む。
なぜなら読みたいから!
なぜならここにそれがあるから!
こうして10巻目に手を出す。
10巻目読了。
時計を見る
見事、時間オーバー
はうあ!
しまった、いやまてよこれなら15分延長で
なんとかもう1巻いけるんじゃあないのか?
延長戦。
15分後
はうあ!
こうして男達の夜は明けていく・・・・・・