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ムラカミロキ -MurakamiLoki- nzchao.Exp Official Blog

電車賃がない

先日はライブでした。
こんな感じ(記録用)


10/11(月)
東京 大久保Hotshot
a c o u s t i c


open18:30/start19:00


ticket
adv/door\1500-


w/栄一郎/ブッチマン/真優/中島祥


なんというか、中島祥事NG-VanVanと対バン(対マン?)の日でした。




こういう事をブログで書くのはどうかと思うが
まあ酔っ払った勢いで書こうと思ふ。
ちなみにこの話はフィクションです。実際の人物団体事件には関係ありません。
ええ、フィクションです。




とある日の事
「なんだい君は、明日食う飯代もないのか」
それは僕がとある仕事中、上司、というかなんといういうかの人に
給料をなんとか早めにもらえないかと切り出した時の事だった。
基本、給料日は毎月25日なのだが、働いた分はその日に言えば
貰えると聞いての事、だった。
「・・・難しいですか?」
僕は申し訳なさそうに聞いた。なぜならそういう空気がその場に流れていたから。
「最近ねぇ、経理の人が来てないからねぇ・・・」
「じゃあ、次来る時にもらうっていうのは・・・やっぱ駄目ですか?」
「まあ一応聞いては見るけど、俺の権限じゃあねえからなあ」
その上司の人は、いささか「面倒臭いなあ」という表情を浮かべてそう言った。
僕は、その顔を一目見て「ああ、これは無理だな」と察した。暗黙の了解で。
「そんなに金に困ってるの?明日の飯も食えない程」
上司は再びそう聞いた。
「いえ、飯代って訳ではないんですが・・・」
僕は口篭もりながら続けた。
「明日、その、ライブがありまして・・・その、ノルマがちょっと・・・」
僕は乾いた口を何とか湿らせながらそう言った。
すると上司はそれを聞いて、「フフン」と鼻を鳴らし
「まあ、無理だね、昨日の今日じゃ」
と言い放った。その顔には若干の安心が見てとれた。
「・・・そうですか。」
僕はそう言って再び仕事に取り掛かった。黙々と。
今日の仕事は電球の接続だ。
伸びた裸の電線と電線をグリグリと捻り合わし、それをビニールテープで巻く。
ひたすらその繰り返し。
僕は電線を捻りながら思った。困った、と。頼りにしていた給料が、出ない。
今の僕には数百円の小銭しか残されていなかった。
どう考えても明日のノルマは払えそうにない。
「ちょっと便所に行って来ます」
僕はそう言い放ち、一緒に作業をしていた上司の顔も見ずにその場を飛び出した。
そこには何も無いのに、何かから逃げるようだった。
そう、実際僕は逃げたかったのだ。何かから。
便所へ向かう途中、僕はひたすら明日の金の事を考えていた。
いつものバンドのライブなら良い、まだ、いざとなったら頼れる人間が数人いる。
だけれど、明日のライブはソロの弾き語りだ、頼れる人間は、いない
もちろんこういう考え方が良くない事であるのは百も承知だ。
だが、そうも言ってられない事情というのが少なからずあるのだ、この世の中には。
もちろん、子供の頃には想像し得ない事情だが。


ここで突然話は変わるが、僕にはAという憧れのアイドルがいた。
僕は追っかけともオタクとも言えない程ではあるがそのアイドルが好きで
とある友人からそのアイドルの写真集を貰った時には中々に喜び
バンドをやる一つの目標にもなっていた。
いつか僕がミュージシャンとして売れて、それなりの大物になり
ラジオ番組の一つでも持った暁には、そのアイドルをゲストとして呼び
感動の対面を果たそうと思っていた。
その話をする度、周りの人間はバカだバカだと笑ったが
僕は本気だった。本気で憧れていたのだ。
そしてそれは何時の間にか、僕が音楽活動をする一つの大きな動機にもなっていた。
だから僕は、テレビにそのアイドルが映るたび
「俺も頑張ろう」と、切に、切に思えたのだ。


僕は便所に向かった。
僕は便所に向かう途中、ずっと明日の金をどうするか考えていた。
外の風にでも吹かれれば、多少はいい考えの一つでも浮かぶだろうとも思ったのだ。
でも、僕の頭の中は堂々巡りをするばかり
幾ら考えても良策は浮かばない
僕がうんうんと頭を悩ませ、俯き加減に便所へ向かっていた。
その時だった。


僕のすぐ横を何か「異質な物」が通り過ぎた気がした。
僕はひょいと目線を上げ、その「異質な物」が何かを確認した。
そして、この場で起きた現象を、何が起きたのかを確認した。
憧れのアイドルAが、本物の偶像少女Aが
僕の横を通り過ぎたのだ。
きっと何かの撮影だったのだろう、毛布を肩にかけ
数人のスタッフを引き連れていた。そして彼女はこう言った
「月末の○日にKさんのライブがあって誘われてるんだけどさ〜
 スケジュールどうなのかなあ〜」
僕はそれを黙って横目に見て、黙って通り過ぎた。
彼女はこっちをチラリとも見やしなかった。
僕は便所に入って小便を垂れ流しながら
漠然と考えていた。
明日の金をどうしようと。


そんな小便を垂れ流しながら、僕はふと我に帰った。
僕は今、あの偶像少女Aと、本物の偶像少女Aとすれ違ったのだと。
あれだけ憧れていた、あの生の偶像少女Aとすれ違ったのだと。
でも改めて思い直してみても、何も思わなかった。
そう、僕は何も思わなかったのだ。
何も思わなかったのだ。
僕にとっては、その時の僕にとっては、
偶像の少女Aよりも、明日の金の方が重要だった。
あれだけ憧れていた偶像少女Aよりも
明日の金の方が重要だった、僕は明日の金の事で頭が埋め尽くされていた。
そして彼女は、僕の事をチラリとも見やしなかった。
彼女にとって、僕は視界にすら入らない存在であり
すぐ横を通り過ぎる僕よりも
有名ミュージシャンKのライブとスケジュールの兼ね合いの方が
遥かに重要な事柄だった。
それは当たり前の事だ。至極当たり前の事だ。
でも、それでも僕はショックだった。僕が視界にすら入らない彼女にも
そして何より、彼女とすれ違っても、明日の金の事を考えている自分自身にも。


仕事は深夜まで続いた。
仕事をあがった時、もう終電は無くなっていた。
上司は
「こんな時間まで、大丈夫か?帰れんのか、お前」
と言ってくれたが、僕は笑って
「大丈夫っすよ」
と答えた。
僕にとって、終電が無くなるか否かよりも
稼げる時に一円でも多く稼ぐ事の方が遥かに重要だったからだ。
電車がなくなって、線路沿いを歩きながら
僕は順調に行けば明日ライブで歌うであろう
「電車賃が無い♪電車賃が無い♪」
という歌を口ずさんでいた。
実際には電車賃が無い訳ではない。
単純に終電が無いだけだ、でも僕にとってはどっちも同じ事だった。
今日金に困るか、明日金に困るか。
ただそれだけの違いだ。それは些細な違いでしかない。
僕はやるせなくなって、歩きながらとある女の子に電話した。
「もしもし」
「何?」
「いや、何って訳じゃあないんだけど」
「・・・」
「いや、明日ライブがあるんだけどさ」
「ふーん」
「でも、ノルマのチケット代が払えそうにないんだよね」
「何、久々に何かと思ったら、金の話?」
「いや、うーん、そういう訳じゃないんだけど・・・
 ただなんとなく声聞きたくなって」
「へえ、まだそういうのやってんだ」
「え?」
「ライブとか。金が足りないって事は、どうせ客入ってないんでしょ
 そうやって損するだけの自己満、まだやってるんだ、って」
「いや、うん、そういわれるとなんとも・・・」
「別にさ、それが趣味でやってんならいいと思うけど、
 他にちゃんとした職があって、その空いた時間と浮いた金で
 そういう事すんなら別いいと思うけど、明日のライブ代が無いって事は
 結局それ本位で他の事はおざなりなんでしょ。で、いきづまってる。
 しかもアンタの事だから、どーせ金稼ぐのも活動も、どっちつかずで
 中途半端になって、アタフタしてるだけ。数年前みたいにね」
「・・・おっしゃる通りかも」
「いい加減やめちゃえば?」
「ああ、うん、そうかもしんないけれども・・・」
「そんでちゃんと考えなさいよ、先の事とかさ」
「親みたいな事言うな・・・」
そこで電話は切れた。
彼女が言ってる事は最もだ、と僕も思った。
見上げた夜空が妙に奇麗だった。
街灯が照らし出す人がいない町並みも奇麗だった。
目に映る全ての物がとてつもなく美しい物に思えた。
こういう風にただブラブラと見慣れた街を歩く時
たまにはこうして歩くのも悪くないかなと思う。
でも、それは錯覚かもしれない。
それが美しい物であると思い込む事によって
ただ歩く事しかできない自分を、そしてこの無駄に歩いている時間を
正当化しようとしている自己防衛にすぎないのではないかと。


なんとか無事家には辿り着き
僕は倒れこむようにしてそのまま眠った。


そして次の日になった。
結局ライブ代は友人に借りる事になった。
しかしその友人には以前にも金を借りていて、
しかも返済はまだしておらず、その他にも色々と世話になっているので
ライブのノルマは一万五千円だったのだが
なんだかムショウに申し訳無くなって、一万円だけ借りる事にした。
この際一万円も一万五千円も大して変わらない気もしたが
僕は一万円以上借りる訳にはいかない気がした。
彼は嫌な顔一つせず一万円札を渡してくれた。
僕は自分が情けなくてしょうがなかったけど
その一万円札をしっかりと受け取った。
残りは五千円。
僕は家で自分の部屋を見渡した。
あの、友人から貰った偶像少女Aの写真集があった。
僕はそれをパラパラと捲ってみたけれども
最早「多少は金になりそうだ」以外の何も思わなかった。
友人はこの写真集を僕に渡した後に言った。
「俺はもうこの写真集はいらないけれども、
 どうせ手放すなら大事にしてくれる人に渡したい
 お前なら大事にしてくれると思う」
当時の僕はそれを承諾したし、目一杯大事にするつもりもあった。
でも、その話を踏まえれば、僕にはもうこの写真集を持つ資格がない。
僕はこの写真集を売る事に決めた。
五千円には届かずとも、多少の足しにはなるだろう。


結局、写真集を売る予定の古本屋が見事に潰れていて
その写真集を売るタイミングを逃し、ライブ会場まで同行する形になった。
ライブのリハーサルを事無くこなし、本番までの空き時間。
大久保で僕は古本屋を探していた。
でも歩けども歩けども古本屋は見つからなかった。
大久保はよく来る街ではあるけれども
そういえば中古CD、VIDEO、そして楽器屋はあっても
古本屋を見かけた事は無かった。
僕は写真集を売る事を諦めて
違う手を打つ事にした。
違う手と言っても残された時間はわずかしかない。
残る手はスクラッチでも当てるか、もう一つ。
僕はとある金融業者の門を叩いた。
簡単な手続きを済ませると「シャキーン」と一万円札が目の前に現れた。
本当に「シャキーン」と、僕があれだけ頭を捻ってもうんともすんとも
出てくる気配が無かった一万円札が「シャキーン」と目の前に
いとも簡単に現れたのだ。成る程、これはハマル人の気持ちが解るなあ
と感慨深く思いながら、その一万円札を受け取った。


そうして全て人の金でやったライブは
我ながら最悪の出来だった。
実際、僕は「ライブをやる事」よりも
「ライブの金をなんとかする事」
の方ばかり考えていたのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
もちろん、その責任は全て僕にある。
ちなみに写真集は、幸いライブを見に来てくれた
写真集を渡した張本人の友人が、僕がその写真集を持っているのを
見るや否や、まるで全ての事情を察したかのように般若の形相で
回収していった。僕は内心ホッと胸を撫で下ろしたのだが。


ライブの次の日
僕は学校の最終課題の発表だった。
こう見えて僕は学生なのだ。
いや、学生だったのだ。


僕は何の準備も無しに、飛び入りでプレゼンに参加し
有り物の作品で適当な事を適当に言った。
先日のライブに勝る程の酷い出来だった。


その酷いプレゼンの後、教授が僕の元に来て言った
「もう、いいよね、進級は」
僕は黙ったままただ
「はい」
とだけ言った。
この人は全て解っている。去年の留年ギリギリで無理やり上げてもらった
経緯も、僕の留年がそのまま退学、もしくは休学を意味する事も
そして、僕が進級するだけの仕事をこなしておらず、例え一年多く
通った所でその仕事をこなすことが出来ない事も。
だから僕は
「はい」
とだけ言った。僕自身解っていたのだ、いつかこういう日が来るという事を
流石にそこまで馬鹿じゃない、それなりの覚悟は出来てるつもりだった。
そしてこうも言ってくれた。
「学校だけが全てじゃない、やりたい事があるなら、それを目一杯やりなさい」
と。
僕は「ありがとうございました」と「すいませんでした」だけを言って後にした
今の僕に他に何が言えようか。


でも「やりたい事」とは何なのだ。
僕は幾千幾万の金と、心底好きだった女の子をドブに捨ててここにいる。
そして今度は学校を捨てた。次はおそらく家族を捨てる事になるだろう。
毎回毎回、一見捨てられているのは僕のようで、その実
捨てる選択をしているのは僕なのだ。僕は「活動」という逃げ道と
どうしようもない睡眠のために、次から次へと捨てていく。
背負っているのがただ面倒臭いという理由だけで全てを捨てていく。
そこまでする必要があるのか、僕が後少しだけ、まともな人間なら違ったのだろうか
僕にはよく、解らない。


よく解らなくなって、また別の女の子に電話した。
「やりたい事をやるのが正しいと思う」
彼女はそう言った。
「じゃあ、もう一度だけ、付き合ってよ」
僕は半ば泣きながら言った。
「それは、無理だよ、この先ずっとありえない」
そう言って電話は切れた。




※この話はフィクションです。実際の人物団体事件には一切関係ありません。