hideが死んだ時、まだ彼をあまり知らなかった。
「ピンクスパイダー」は凄い曲だと思った。
後に彼を敬愛するようになった。
深作欣二が死んだ時、まだ彼をあまり知らなかった。
「バトルロワイアル」は面白い映画だと思った。
後に彼を敬愛するようになった。
忌野清志郎が死んだ時、
何だかよく解からないけれど
「間に合わなかった」と思った。
そして若松孝二が今日死んだ。
やっぱりよく解からないけれど
「間に合わなかった」と思った。
いつだって自分は間に合わない。
清志郎と若松孝二に何の脈絡も関係もないかも知れないけれど、
あの二人には何か、まだこの先の壁やタブーをひっくり返して
戦い続けて、その度に後進に多大な影響を与えながら、
ロック界や映画界を引っ張り続けてくれるんじゃないだろうか。
そんな漠然とした信頼と安心感があったんだと思う。
若松孝二はトークショーなり舞台挨拶なりで
何度も傍を通り過ぎた。
その度にサインを貰おうか話しかけようかと悩んだけれども
結局一度もそれはしなかった。
何者でもない若者の、精一杯の些細な抵抗とプライドだったのかもしれない。
以前何処かのトークショーで、若松孝二がこう言っていたのを思い出す。
「本当は警官をぶっ殺してやりたかったんだけど、本当に殺しちゃまずいから、映画ん中で好きなだけ殺してやろうと思ったんだ。」
詳細は違うかもしれないけど、そんな事を言っていた。
虚構に生きよう、と思った。
今日の訃報を聞いて、飲み屋に駆け込んだ。
ビールを流し込みながら言った。
「若松孝二が死んじゃったんですよ」
店のおっちゃんが言う
「え、なんで?」
「なんか新宿で交通事故にあったらしいですよ」
おっちゃんは斜め下を向きながら言った。
「まったく、しょうがねぇなあ…」
その言葉に、何か救われた気がした。