むらふぁけ -murafake- (移行調整中)

ムラカミロキ -MurakamiLoki- nzchao.Exp Official Blog

DEAD STOP No.1

パソコンがある日突然デッドストップした。
電源を入れてもうんともすんとも言わない。
夏が明けたばかりの九月初頭。丁度明け方に冷え込みを感じ始めた矢先の事だった。
電源を入れてもと言うより電源が入らない。コンセントに接続しても
充電ランプすら付きやしない。パソコンにヒューズがあるのか知らないが、
あるのならヒューズがトンだような感じだ。
とりあえずネットで調べた応急処置を色々と試して見るも
何一つ効果らしきものが見受けられない。
愛用のノートパソコンは3年前に購入したもので、
当時普及し始めたCore2duoは積んでいるものの
それもT2300の1.66GHzで、普通に使う分に十分過ぎるが
動画、特にハイビジョンを弄ろうとするといささか頼りない物だった。


それでも基本的に使える物は当然使い倒そうとする貧乏根性で、
とりあえず近所のパソコンショップに修理を依頼しようと足を運んでみた。


「無料の診断サービスと修理の際必要な見積もりをお願いしたいんですが」
「それでは御掛けになってお待ち下さい」


あまり御掛けにならないで煙草を吸ったり店内を物色しながら時間を潰していると
30分程経って名前が呼び出された。


「ちょっと診てみたんですが、どうやらマザーが逝ってるみたいですね。
 そうなるとメーカー修理になってしまいます。」
「はあ、見た感じ電源周りの何処かが逝ったのかなあと思ってたんですけど…」
「ノートの場合、サイズの問題で電源もマザーボードと一体化してるんで
 そこのパーツだけ取り換えるって訳にはいかないんですよ。
 そうなると結局マザーボードを丸ごとメーカーさんに取り替えて貰う
 っていう事になっちゃうんですよね。」


大体そんな感じで説明された。成程、そう言われると確かにそんな気もする。


「メーカー修理に出すと幾ら位ですかね」
「そうですね、詳しくは問い合わせないと解りませんが、
 大体5〜6万ぐらいですかね」
「あー、いわゆる…」
「一つの…」
「『買った方が早いですね』」
「…な状態になります。」


そんなに息は合って無かったが大体お互いの意図は察しが着いた。
こうして見事に「パソコン三年買い換え説」を実行する羽目になったのだった。


「この診断書にパソコン所持数2台って書いてありますけど、
 そっちがメインなんですか?」
「いや、こっちがメインなんですよ」
「あー、それは一大事ですね」
「いやー、一大事ですよ」


もう一台の方は中古で安く買ったさらに旧型のノートで、
低スペックのネットブックに毛も生えない程度の代物であるが、
それでもこの時程二台持ってて良かったと思った事は無い。


以前は持ち運び出来る方が便利だろうとノートを購入したが
実際メインマシンするようなパソコンだとノートにしてもそれなりにかさばったり
重量があったりで結局それ程持ち運ばないという事実を実感した上
一応低スペックながらもノートはあるという現状をなので、
比較的懐にも暖かいデスクトップの購入を検討する事にした。
どうせ買い換えるなら、と思い、昔程mac嫌いでも無くなったので
ここはいっちょ新規一転macの購入でも検討して見るか、とmac売り場へ向う。
年を重ねる毎に昔あった妙な拘りが薄れていく気がするのは
果たして好い事なのか悪い事なのか
そんな風に思いながらキラキラしたimac達を眺めていると
昔より安くなったなあ、と子供の頃父親が会社で
200万くらいのローンを組んで購入した
MacintoshⅡ(多分)を不意に思い出した。


私が初めてパソコンという物に触ったのはそのmacだった。
世の父親がまれにする謎の無駄に高い買い物の一つである。
我が家はごく普通の中流階級だったが、
ある日、妙にでかい段ボール箱に包まれてそいつは現われた。
子供の頃の最初のイメージとしては、
それは何やら難しい事ができる非常に高価な代物で
下手に弄ると壊れるかもしれなくて、ちょっと怖かった。
しかし、怖いとは言っても所詮は機械。
電源が入っていなければ眠った熊のように可愛く見えるもので、
キーボードをカシャカシャやるのがなんだかカッコいい気がして、
良くカシャカシャと触っていた。
そんなある日、父親が会社へ行っている隙にキーボードをカシャカシャやっていると
思わず電源ボタンを触ってしまったようで、
パソコンがヴォン、と音を立てて起動してしまった。
ハイキングの途中にクマに出くわした要領で驚いた挙句、
恐る恐る母親に相談すると、あっという間に一家上げての一騒動となってしまった。
下手に触って壊したら一大事。全員がそう思い、
淡く光るブラウン管をただただ眺める事しかできない。
勤務中の父親の会社へ電話すると矢張り「帰るまで触るな」とのこと。
結局帰ってきた父親がマウスを動かして左上から「システム終了」という文字を選択して
あっけなくそのパソコンの電源は消え、あらぶるクマは無事冬眠に入ったようだった。
とりあえずその時にマウスを動かすと矢印が動くという事実と
キーボードは思っていた程カシャカシャしないという事実を知ることとなった。
その後、そのmacは基本的な使い方を覚えた私と妹のお絵かきゲームマシンと化し
現在は処分されて、名残のフロッピーディスクだけが大量に実家に残っている。


そんな懐かしさを感じながら現行のmacを眺めていたが
結局先立つ物が無ければ衝動買いも出来やしない。
とりあえず家に帰って現行の価格とスペックを調べる事にした。
しかし調べれば調べる程、忘れていた怒りがふつふつと沸き上がり始める。
「このスペックでこの値段。windowsだったらこんなに安くて選択肢があるじゃないか」と
macに求めるべきなのはそういったスペック以外の部分である。とは思っているが
思っているがどうしても納得できない。結局出てくるのは数年越しのこの言葉。
「高えんだよマック、ファック。」
という訳でmac移行の選択肢は夢と消えるのだった。
いつかお金持ちになったら、マックを買ってみよう。そしてFinal Cutを使ってみよう、と。
実際それ程凄い価格差がある訳ではないが、その微妙な価格差を
埋める程の動機に成り得ない。特に一、二万の問題で
日々ヒーコラ言ってる身分であれば尚の事。
話は振り出しに戻る。どうせ買い換えるんなら、
と再び思い直して、前々からやってみたかった
パソコンの自作に手を出してみる事にした。
ネットで色々と調べてみると、色々と難しそうではある。が、その時なんとなく思った。
「なんとなくいけそうだ」と。
なんとなくいけそうなのでなんとなく秋葉原へ向う。


目標としてはハイビジョン編集がある程度快適にできるマシンにしたい。
しかしそうなるとそれなりのハイスペックを要求されてしまう。
そこでとりあえず話題のcpu、core i7が使ってみたいという欲求も含め
cpuに金をかけて、後はそれなりの物で済ませることにする。
色々と悩んだ結果、発熱と性能と価格の折り合いでcore i7 860で行く事にした。
OSはwindows7アップグレードに強く心を惹かれたが
現状ならまだ32bitの方が色々と使い勝手がよさそうなので
それならばと使い慣れたxpで行くことに。
そうなるとメモリも3、4GB以上積む必要もない。
他のパーツは色々と貰い物や某裏ルートやパーツ屋巡りでそれなりに安く仕上げ、
金をかけたと言えるのはビデオカードぐらいだろうか。
そして腕が千切れそうになりながら帰宅し、いざ組み立ててみると
その作業は思った以上に簡単だった。初めて組みたてたグフより簡単だった。
マザーボードに書いてある表記通りに端子を差し込んでいき
電源ボタンを押すと低い冷却ファンの音が鳴り、
ドライブからOSのインストールが始まる。
自作の利点としては心なしか愛着が沸くことで
比較的煩めなケース付属のファン音も
なんだかペットの鳴き声のようで可愛い気がする。
ケースが白いので安直にホワイトベースと呼ぶ事にした。
今夏の数少ない思い出、お台場ガンダムの横で購入した「WB」の
ステッカーを貼ってやる。完成。


色々調べたり資金調達したり重い腰を上げたりで時間を食って
気がつけば九月も終盤に差し掛かっていた。


十月の頭にさっそくハイビジョン(正確にはHDV)で一本撮る事になった。
前々からやりたかったバトル物である。
簡単に言うと近所の公園やら河原やらで友達をビシバシ戦わせる
自主映画によくある類の物である。
しかしここで問題が起きる。私は殺陣がまったく解らないのだ。
こんな感じで闘ってる様がカッコイイだとか、
闘ってる所をこう撮ろうという事は思いついても
肝心の闘いの中で、人物をどう動かせばいいのかサッパリ分らない。
昔からひ弱で気弱で大人しく、クールで冷静沈着でナイスガイ
な私は喧嘩もロクにしていない。
これは困った。しかし困っていてもしょうがない。
とりあえず旧作100円セールをやっているGEOに足を運び
ジャッキーチェンだとかその辺を借り漁ってきた。


とりあえず見る→「おお〜」
もういちど見る→「すげー」
あらためて見る→「かっけ〜」


これでは何の参考にもならない。そもそも何かカッコイイ事が起きているが
具体的に何が起きてるのか早すぎてイマイチよく分らない。
とりあえず一時停止しながらコンテと殺陣を書き出していくことにした。


「えーっと、ここで右裏拳、払って払って、中段蹴り…あれここ二発も入れてんの!?」


そんな事をブツクサ言いながらDVDプレーヤーと格闘する。
そしてそんなこんなを続けながら、ボチボチ役者の方も決めなければならない。
個人的に頭の中ではもうオファーの相手は決まっていた。ネヅ君とカマタ君である。


ネヅ君はブルース・リーカウボーイビバップに憧れ、ジークンドー
独学で学び続ける傍ら、そのやたらと絡まれ易い体質からまったく女っ気のない
クローズZEROのような青春時代を送ってきた人物で、映画への草子も深い。


カマタ君は昔から空手をやり続け、荒縄を巻いた林の木を殴り続けるという
バキみたいな青春を送ってきた人物で、ついこないだまで
大学の空手部の主将を務めていた。


まあこの二人ならそこらの一般人よりは動けるだろう、と安直に思って電話をかける。
二人とも忙しそうだったがなんとか無理を言ってOKを貰った。
ちなみに詳しくは知らないが、この二人は中学時代から因縁浅からぬ仲だそうで
何度か対決の歴史があるらしい。なるほど、ならばここで
それをパシッと映像化してしまえばよいではないか、
とも安直に思った。


役者もなんとか無事に決まったが、一方で殺陣の推敲は難航していた。
「これは、ワイヤーだから無理として…この回転はかっこいいな」
そう言って散らかった部屋に無理やり気持ち程度のスペースを作り
その日常では間違いなく使うことのないであろう奇妙な動きを
実際に自分でやってみる。やってみて、そしてなんとなく思った。
「なんとなくいけそうだ」と
なんとなくいけそうなのでなんとなく採用してみる。
そうやって、一つアクションを考えては畳の上でバッタンバッタンしながら
検証するのを繰り返していく。
二人とも忙しいので撮影の日にちはズラせない。なにより編集期間を考えると
こっちもこれ以上延期はできない。
結局撮影前日までその作業は続いた。


撮影日、自慢の下手糞で汚いコンテも無事に上がり、
徹夜明けでフラフラしていると二人がやってきた。
「じゃあとりあえず撮りに行こっか」
と言うとネヅ君が
「待て、その前にどういう動きをするのか説明しなさい」
と言ってきたので、まずは動きの確認と打ち合わせをする事になった。
(よく考えれば当たり前の事である)
「えーっとね、ここで右裏拳、くるっと回って左裏拳…」
と一通り説明し終えると二人の様子がどうもおかしい。
「これ当たったらマジあぶねえぞ」
「人間の動きじゃねえだろ」
「そもそも回転しすぎ」
「こんな動き出来ません」
などと不評の嵐である。どうやら素人が安直に考えた動きは結構危険なようだ。
そして見栄えが派手なのを優先したせいか、改めて見ると
確かに至る所でクルクル回転している。
「実際の戦いではこんなに回転しない」
となんともリアルな御言葉をいただく。なによりジャッキーを参考にしすぎたのと
二人の持ち技である空手とジークンドーを無視しすぎたせいで
なんともやりずらい動きになっているらしい。


徹夜で考えた殺陣とコンテはわずか30分足らずで全て没という結果になった。
結局、基本の動きは二人のやり易いようにやってもらい
要所要所でこっちが考えたアイディアを使っていく。
という、そんな方向でなんとか撮影する事となったのだった。


・・・


その他にも色々と困難はあったもののなんとか撮影は終了した。
さっそく新調したホワイトベースでの編集作業である。
これならサクサク出来るだろうとウキウキしていると
始めて五分くらいでPremiereが固まる。
あれ、おかしいな。と再起動するもしばらく経つとまた固まる。
どうもおかしい。正確には固まるというよりプレビューがまったく出来なくなる。
最初は普通に動いているのだが暫らくするとプレビューが一時停止のような
状態になり、まったく再生できない。
おかしいと思って色々と調べたり設定を変えてみたりするが原因が分からない。
「ここでまさかのPremiereデッドストップか!?」
と不安に駆られるもどうしようもなく、
結局「ハイビジョンは重い」という事実だけが大きく圧し掛かり
期待を裏切られて大きく落胆しつつ
五分おき毎に再起動を繰り返しながらシコシコと作業を進める羽目になった。
そういった訳で編集は予想以上に時間を費やす形となり、大幅に予定は遅れていく。
悪戦苦闘の作業の中、ある時、ちょっと音を別録りしようと
座りっぱなしで痛くなったお尻を擦りながら
音声デバイスオンボードから外付けのオーディオインターフェースに切り替えた。
ちょうど編集作業も3/4程進んだあたりである。
そのままPremiereを起動し、編集を始めていると
いつもなら固まる頃になっても一向に固まる気配がない。
エフェクトをいくら乗せても多少重くなる位でプレビューは動いている。
はて、不思議に思いつつもそれまでの数倍のスピードで作業を進めていってみると
結局その後プレビューが固まる事はなかった。
どうやら音声デバイスとの相性だったらしい。オーディオインターフェースの方で
不具合が出るならともかく、オンボードの方がトラブルなんて事もあるんだなあ
と、以外な落し穴にポカンとしてしまった。


しかし、幾ら作業スピードが上がったと言っても、遅れた時間は取り戻せない。
結局そこから再び徹夜で作業を進めた。
何度目かの夜を越え、最終のルック調整を終えて
遂に作業も終わりを迎えようとしたその時、
フラフラな頭の目の前に不思議な物が現れた。
「あれ、ペコちゃんだ」
何故か目の前にペコちゃんが浮かんでいる。御存知不二家のペコちゃんである。
立体物というよりは、画像が視界のあるレイヤーにぺッと
貼り付けられたような感じである。
ペコちゃんはいつもと同じ、舌を出した笑顔でふわふわと目の前を漂っている。
その笑顔を見ているとなんだか妙に心が癒された。
「ああ、ありがとうペコちゃん」
そう言うとペコちゃんはふわふわと大きさを変えずに視界の上の方へ消えていく。
こうして生まれて初めて素面でシッカリと幻覚を見るという、
文字通り滅多にお目にかかれない貴重な体験をすると同時に、
自分自身の意識も次第にフェードアウトしていき、
やがて思考は完全にデッドストップして行くのだった。


突っ伏して寝ていると誰かに起こされた。
「わるい、遅くなった」
マルヤマ君だった。マルヤマ君はギタリストで、時たま練習で録った音源を
カセットテープからCD-Rに焼くためにうちにやってくるのだ。
今日はギリギリでこっちの作業が終わりそうだと伝えておいたのだった。
ボーっとした頭を震わせてのそのそと起き上がる。
カセットMTRから赤白コードをブっ刺して、パソコンへの取り込みを始めると
ジャジーだが何所か拙かったりするアコースティックギターの音が
スピーカーから心地よく流れ出してきた。
マルヤマ君はこの作業をする時、いつもちょっと申し訳なさそうにしている。
だけれど実際の所、この簡素なアコースティックギターの音色を聞きながら
何かほけっとしているこの時間は、先程のペコちゃんと
似たような心の癒しがある気がする。
だからこの作業はそんなに嫌いじゃない。特に待ち望んでもいないけど。
明け方の冷え込みが以前よりもきつくなってきた。
早い物で、もう十月も終盤に差し掛かりつつある。
そんな話をしていると
「地球の自転と公転が速くなっている」
という事でお互いに同意した。
「俺、絶対それあると思う」
マルヤマ君が言う。
「まあ、実際そうでも誰も気づかんわなあ」
損な時代に生まれたもんだと思った。
「このまま行くとさ、2012年に次元が上昇するんだよ」
「え、次元上昇すんの?」
思わず聞き返した。
「うん、今三次元なのが五次元になるんだよ」
「四次元も今だによく解かんないんだけどなあ」
「マヤ歴がさあ、2012年で終わってるんだよ」
「へえ」
「だから、その次元が上昇する時に生き残れるかどうかが問題なわけ
 まあ俺は生き残れると思うけど」
確かに生き残れそうだと思った。
ノストラダムス以来じゃない?この感じ」
そう言ってマルヤマ君は笑った。


そんなこんなで出来あがったのがこれである。


DEAD STOP No.1
http://www.youtube.com/watch?v=-4SCKxXaTio


ダラダラと九月の頭から先週までのごく一部を綴ってきた
この話とは特に関係のない内容である。
パソコンのデッドストップから始まった秋の音は
幾多のデッドストップを経て今や冬に姿を変えようとしている。
明け方のあまりの寒さに布団を被りながらこの話を書き出してみた訳だが、
まだこの話は終わらないようだ。
少なくとも、2012年の大規模なデッドストップまでは。