むらふぁけ -murafake- (移行調整中)

ムラカミロキ -MurakamiLoki- nzchao.Exp Official Blog

機械人間ゴリラ

ゴリラ君という人がいる。
別に本名の訳ではない。そして知り合いでもない。
彼はおそらくなんでもない一般市民だ。


彼と出会ったのは、いや果たして「出会った」という
言葉がこの場合的確なのかは解らないが
自分がまだ中学生、それも一年生ぐらいの時だったと思う。
その年の夏休み、自分は健康のため
近所の市民プールに泳ぎに行くのが日課となっていた。
そこにある25メートルプールに彼はいた。
ブーメランパンツを履いた彼を初めて見た時に
思ったのはただ一つ
「あ、あの人ゴリラっぽい」
である。
それ以来彼は自分の中でゴリラ君となった。
彼もどうやら自分と同じように市民プールで泳ぐのが
日課となっているようで、それからしばらく
自分は彼を毎日見かける事になった。


最初、彼はその顔つきや体つきから
自分とおそらく同い年もしくは1、2年程年上かと思っていた。
が、それはある日、いつものように25メートルプールを
泳いでいた時のことである。
彼はおもむろに休憩スペースへ向かったかと思うと
どこからか煙草を取り出して吸い始めたのだ。
その光景を見た時に自分は思った。
彼はいったい幾つなのだろうか、と。
もちろん彼が粋がって煙草を吸う中学生である
という可能性もあるのだが。
彼が煙草を吸うその姿は、明らかに若者のそれではなく
間違いなく二十歳過ぎ、下手したらオヤジといっても
差し支えないようなオーラを醸し出していたのである。
自分の中の
「ゴリラ君自分とおそらく同い年もしくは1、2年程年上説」
が突如揺らぎ始めたのである。
自分はしばらく考えたが、考えた所で答えがでるはずもなく
かといって確かめる術もなく
何よりそこまで気になるものでもなく
そんな一抹の疑問を残しつつも夏休みは終わり
ゴリラ君に会う、いや見かける事も無くなった。


はずだったのだが
このゴリラ君、これ以降もチラリホラリと
自分の前に姿を見せるのである。


ある時はコンビニの立ち読みコーナーで
(あ、ゴリラ君)


またある時はバスの中で
(おおう、ゴリラ君)


さらには自転車に乗ってる時すれ違い
(あれ?ゴリラ君?)


行動範囲が自分と重なってる事から
おそらく近所に住んでいるものと思われるが
もちろん何処に住んでいるか等知る由もない。
さらには別段家の近所というわけではない所でも
出くわす事があるのもまた興味深い。


そしてこのゴリラ君を目撃するのは
そんなに頻繁なわけではなく
この数年間でおそらく数えられる程しかない。
だが、時たま忘れた頃に現れるのである。
自分はこれを
「忘れた頃に現れるゴリラ君現象」
と呼んでいる。
色々と謎多き男ゴリラ君であるが
その中で一番謎であるのがその年齢である。
自分が初めてゴリラ君を目にしてから
もう何年、十年近い歳月が流れているが
彼の顔、服装、外見全般は全くと言っていいほど
変化がないのである。
さらには見かける時間もバラバラなので
はたして学生なのか働いているのか
またはそれ以外なのかも不明なのだ。


そしてこれだけ長い間、度々
顔を会わせているにも関わらず
自分とゴリラ君は知り合いでもなんでもない
おそらく認識しているのもこちら側だけだろう。
休日の渋谷なんかを歩けば
それこそ何百人という人間に出会う事になる
だが、そのすれ違った人々が自分の人生に関わる事は
ほとんど無い。そういう人々とは、俗に言う「縁」
が無いのである。そういった見方をすれば
自分とゴリラ君はおそらく「縁」がある方である。
が逆に言えば「縁」しか無い。
自分とゴリラ君の人生は、縁によって
大分近い所を通ったりする。
だが、その二つが交差する事は全くない。


よく
「○○したいがいい機会がない」
というような話を聞くが、これも似たような物で
逆に機会があっても機会だけでは
どうしようもないのである。
結局は行動する方の問題なのだ。
「俺達にできるのは準備をする事だけだ。
 チャンスが訪れた時、それを絶対逃さない準備を」
とはQueenブライアン・メイの言葉だったと思う。


かといって、ゴリラ君と御知り合いになろうなんて気は
毛頭ない。なぜかって、どうでもいいからである。